愛甲の架空鉄道あれこれ

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2005年 05月 28日

からっ風と旧型電車

ここは北関東の、とある私鉄。
この私鉄では、昭和初期の開業時に作られた旧型電車を、今でも大切に使い続けている。
旧型電車らしいリベットだらけの質実剛健な作りの車体と、屋根に鎮座する大きなパンタグラフが目を引く。
そして車内に入れば、ニスの香りも芳しく、白熱灯と木製の内装と真ちゅう製の金具が、昭和初期の香りを色濃く残す。
春はうららかな日差しをその身に浴びて、夏はいっぱいに開け放たれた窓から草いきれを取り込み、秋は黄金に頭を垂れる稲穂をかき分け、そして冬はからっ風に窓ガラスをがたつかせながら、この70年間、この電車は走り続けてきた。

その姿に多くの鉄道ファンが魅了され、沿線では撮影や乗車を楽しむ人々の姿がしばしば見られる。
そんなファンたちは、口を揃えて言う。
「この電車に一番よく似合う季節は、冬」
春の陽光でもなく、夏の草いきれでもなく、秋の瑞穂でもなく、この電車に一番よく似合うのは、あくまでもからっ風の吹き付ける冬であるという。それも夕方、日が暮れるか暮れないかのひと時。

とある冬の日の夕方。
太陽も傾きかけた頃、今日も北関東特有のからっ風に吹かれながら、例の旧型電車がやってきた。
整然と並ぶ木製の架線柱を横目に、ヘッドライトを煌かせ、パンタグラフを高々と掲げ、37kgレールを踏みしめ、車体をゆっさゆっさと揺らして…
家路を急ぐ人々を乗せ、つりかけ音も高らかに、旧型電車は駆け抜けていった。

そこに漂うは寂寥。ただそれだけである。
しかしその寂寥は、一抹のものさびしさの中に温もりをたたえた、えもいわれぬ寂寥であった。

その、えもいわれぬ雰囲気の正体は、光であった。
吹き付ける風は冷たいが、車内からこぼれ来る光は、温もりに満ち満ちた光であった。
その光は映写機のごとく、電車というスクリーンに車中の人々の生活を映し出していた。
名もない小駅に停まっては、人々を乗せ、そして降ろしてゆく。
そんな人々の日常の営みを、この電車は暖かに映し出していた。
この電車は、70年前から今日まで、人々の日常を担い、映し出す仕事を黙々とこなしてきたのであろう。
そんな日々の積み重ねに思いを致すと、胸が熱くなる。

しかし残念なことに、そんな旧型電車も、まもなく引退することが決まった。
旧型電車ゆえ、部品の確保や整備が難しくなってきたため、大手私鉄の中古車を入れることになったのである。
その新旧交代の時期は、今度の春。
まさに、からっ風のやむ季節である。

旧型電車は、70年間付き合ってきたからっ風を道連れにして、今度の春、姿を消す…
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by aikoh_denki | 2005-05-28 00:20 | 架空鉄道全般


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